”自分の言ったことは曲げねぇ!”

今年の春、息子は中学を卒業し高校に進学した。近所の公立校に通わせていたため、なんだか中学校は母親のわたしにとっても身近な存在だった。中学に入学してから基本的に異動がない限りは3年間持ち上がり、子ども達と一緒に3年間ともに成長していくという先生方。

息子の学年には息子が拾い上げるのが上手なのか、本当にそうなのか、個性的で人間味あふれる先生が多かった。息子はよく、そういう先生の口癖をまねて、家で披露していたので、とても親近感を持ってしまうのだった。そのなかのひとりがりょーへい先生という体育教師。いわゆる熱血教師だった。若くエネルギッシュなりょーへい先生は曲がったことが大嫌い。

例えば、生徒がある冴えないおじさん先生の似顔絵を描いて笑い者にして、友だち同士にこっそり自習時間に回していたずらしようものなら、それを見つけたとたんに「おまえらどう思う??おいっ!」と形相を変え自分のことでもないのに、「お前ら(●●と●●と●●と名指しされ立たされた生徒の眼の前に行き)じゃ、俺の似顔絵描いて笑ってみろよ!!!!」とぶち切れ、そこらへんに置いてあったいらない紙を拾い上げて引きちぎろうとして、威嚇しようとしたら、その紙がちぎれない!ちぎれねぇ・・・・ってなって、なんか絶対に笑ってはいけないのに教室に笑いを誘ってしまうシチュエーションを作ってしまったりょーへい先生・・・

卒業式の練習では、中学校生活の集大成として一番大事で厳かな行事である卒業式への想いが純粋に熱すぎて、大あくびをした男子生徒を発見。「大事な式の練習なんだから、気を引き締めて取り組め」と注意しつつ怒りのボルテージがあがったところに、事もあろうにその男子生徒は数分後、りょーへいが見ている前で口もふさがず、おおっぴろげな口を広げ二度目の大あくびをしてしまった。もちろん、りょーへい先生は体育館でブちぎれた。ブちぎれて、男子生徒のところにステージから飛び降り走ってゆくので、学年主任の先生がこれはまずいと察して、「ほかの先生方、サポートをお願いします」と合図がなされ、SPのようにさささーっとその他の先生方が走っていき、りょーへい先生の腕を掴み、手が出ないように身体拘束され、なだめられたという騒動も。

根っこにあるのは、曲がったことが嫌いで何事にも全力で取り組むという信念だろう。生徒にもそれを求めたくなるのは、理想主義な教師あるあるである。

りょーへい先生は、ことあるごとに「俺は自分の言ったことは曲げねぇ」と言っていたので、息子は家で「勉強するするっていつするのよ?」とかって言うと「晩御飯を食べたらやります。俺は、自分の言ったことは曲げねぇ~!」とドヤ顔で真似してみるので、つい私と娘は笑いがこみ上げてしまうのだった。

息子が卒業して数か月経った頃、息子の散らかっている部屋を掃除しに入ったら、カラーボックスにたまっていた中学の頃のプリントの山のなかに、2年生のときの保健体育の試験問題を見つけた。

その表紙には・・・

まっすぐ 自分の言葉は曲げねぇ!

って書いてあった・・・笑わせないでよ!!りょーへい!!試験問題の表紙にすら、なぜこんな自らの信念を表明するんだい、君は!!試験前に、吹き出してしまうじゃないの!

そんなりょーへい先生は、伝説になるようなエピソードをたくさん残し、息子たちの卒業とともに東京区内の遠い学校へ異動になった。そうとわかっていたからか、誰よりも卒業式に熱い想いを持ち、卒業を祝う会では、思い出アルバム的なスライドを夜な夜な涙を流しながら作って、生徒たちに見せた本番でも自分で感動して泣いていたし、卒業式でも退場の時には、生徒以上にどこの誰よりも胸がいっぱいで、男泣きの号泣をしながら花道を進んでいった。

ちなみに、息子の友だちのS君はなんと1年間で3回もりょーへい先生が彼女とデートしているところに遭遇してしまったという・・・新宿で、箱根で、そしてどっかで・・・そんな運命的な偶然ってあるんだね・・・おばちゃんは、りょーへい先生にも可愛い彼女がいてプライベートも幸せそうで安心したけどね。

今は、遠くの学校でも元気にしているかな~?息子による上手すぎるりょーへいのものまねが出るたびに、先生のこと思い出しますよ♪